十人十色のT

 関屋の時代から何十年も県競馬を見てきたが、あの出来事だけは忘れられない。最近ではテレビなどで「決定的瞬間」のタイトルをつけて面白おかしい場面を流しているが、あの当時に、そんな番組があったら、間違いなく取り上げられていただろう。

 かなり以前…20年以上前だったと思う。馬名は忘れたが、アラブの競走で渡辺正治くんが騎乗していたことは覚えている。私はいつも通り、記者席で双眼鏡を右手で持ち、左手には愛用のストップウォッチのスタイルでレースを待った。舞台が三条競馬場のため、コースと記者席は近い場所にあった。1,200m戦だったと思うが、一斉にスタートした競走馬たちが目の前を走っていき1コーナーへ。そして、2コーナーへ…。その時に珍事は起こった。そのアラブの馬はコーナーを曲がりきれず前方へ突進。ラチを軽く飛び越えてコースの外へ出ると、そこには小屋(馬場を整理するための道具が置いてあったと思う)があった。すると、その小屋の開いていた窓へ向かって大きくジャンプ、そして小屋の入口から何事もなかったように出てきたのだ。あん上の渡辺正治くんが振り落とされることなく、小屋の玄関から馬に乗って出てきた時にはビックリした。馬、騎手ともに無事だったのは幸いだったが、華麗な飛越を見ていた私たちでも目が点になっただけに、馬に乗っていた正治くんは私たち以上にビックリしたと思う。あれから馬がラチを飛び越えることはあっても、家の窓から入って玄関から出てくるような出来事はない。もちろん、その馬が障害に転向した事実もない。